インドネシア訪問備忘録(2023年11月)
コーヒーの旅: 山から海まで、豆の壮大な物語 🌄☕🌊
先日訪れたインドネシアの地でコーヒーを囲みながら、コーヒーの深い話を聞くことができました。
産地の情報を文字で見ることと実際にお話しを聞くことではかなりの温度差はでてしまいますが、なるべくそのままの情報をここに記しておきます!!
【2023年11月19日 エコさんのコーヒー生産のお話】
## 1. 地図を広げて、コーヒーの故郷へ 🗺️
まず最初に、私たちがどこにいるのか、ちょっと考えてみましょう。現代人って、自分がどこにいるのか忘れがちですよね。スマホやSNSで世界中とつながれる時代。でも、実際に自分の足が踏んでいる土地のことって、あまり意識していないかもしれません。
そこで今日は、インドネシアのスマトラ島に焦点を当ててみましょう。ここは、世界有数のコーヒー生産地なんです。地図を見てみると、スマトラ島には高い山々が連なっていて、まるで島の背骨のようです。この「背骨」が、実はコーヒー生産にとってとても重要な役割を果たしているんです。
スマトラ島は、赤道直下に位置する巨大な島で、その面積は日本の本州とほぼ同じくらい。島の中央を走るバリサン山脈は、まさにこの島の「背骨」となっています。この山脈が、コーヒー栽培に理想的な環境を生み出しているんです。
具体的に見てみましょう:
1. 標高:バリサン山脈は海抜3,000メートル以上の峰々を持ち、その斜面は1,000〜1,500メートルの高地になっています。この高度がコーヒーの生育に最適なんです。
2. 気候:山脈のおかげで、スマトラ島は赤道直下にもかかわらず、涼しい気候を保っています。コーヒーの木は20〜25度の気温を好むので、この環境は理想的です。
3. 土壌:火山活動によって形成された肥沃な土壌が、コーヒーの木の成長を助けています。
さて、ここからが面白いところです。この地形が、次に説明する水のサイクルと密接に関連しているんです。
## 2. 水のダンス:海から山、そして再び海へ 💧🏔️💧
コーヒーの味を決める大切な要素、それは「水」なんです。スマトラ島の水のサイクルは、まさに自然の芸術とも言えるでしょう。
想像してみてください。インド洋から蒸発した水が雲になって、バリサン山脈にぶつかります。すると何が起こる?そう、雨が降るんです!この雨が山を伝って川となり、また海に戻っていく。これが「水のサイクル」です。
このサイクルがコーヒーにどう影響するのか、詳しく見ていきましょう:
1. 海からの湿った空気が山にぶつかる:
インド洋から吹き込む湿った空気が、バリサン山脈にぶつかります。これは「地形性降雨」と呼ばれる現象です。
2. 雨が降る:
年間雨量は驚異の2200-2600mm!東京の年間雨量が約1,500mmですから、その1.5倍以上もの雨が降るんです。この豊富な雨がコーヒーの木を潤します。
3. 雨水が土壌に染み込む:
火山性の土壌は水はけが良く、適度に水分を保持します。これがコーヒーの根にとって理想的な環境を作り出すんです。
4. コーヒーの木がその水を吸収:
コーヒーの木は、この豊富な水と栄養を吸収して成長します。この過程で、土壌のミネラルがコーヒー豆に凝縮されていくんです。
5. 余った水は川となって海に戻る:
吸収されなかった水は、川となって海に戻ります。この過程で、土壌からのミネラルも一緒に運ばれ、海の生態系を豊かにします。
このサイクルのおかげで、スマトラのコーヒーは独特の味わいを持つんです。具体的には、土壌のミネラル分が豊富なため、コーヒーに深みのある味わいと、時にはハーブのようなニュアンスを与えるんです。
さらに、この高い湿度と雨量が、後で説明する「ウェットハル製法」を可能にしています。これがスマトラコーヒーの特徴的な風味を生み出す秘密なんです。面白いでしょう?🤔
## 3. コーヒーの木の下で:土壌の秘密 🌱
さて、雨が降ったあと、その水はどこに行くのでしょうか?そう、土の中です!コーヒーの味わいを決める上で、土壌の質はとても重要なんです。
ここで、ちょっとした実験をしてみましょう。ペットボトルに水と土を入れて30分置いてみてください。すると、面白いことが起こります。土が層になって沈んでいくんです!
– 上層:砂(一番粗い)
– 中層:シルト(中くらいの細かさ)
– 下層:粘土(一番細かい)
理想的な土壌の割合は?なんと、3:4:3なんです!つまり、粘土30%、シルト40%、砂30%。この黄金比がコーヒーの木を健康に育てるんです。
では、なぜこの比率が重要なのでしょうか?
1. 砂(30%):
– 役割:排水性を高める
– 効果:根腐れを防ぎ、根の呼吸を助ける
2. シルト(40%):
– 役割:水分と栄養分の保持
– 効果:コーヒーの木に安定した栄養供給を行う
3. 粘土(30%):
– 役割:ミネラルの供給源
– 効果:コーヒー豆に深みのある味わいを与える
この理想的な土壌は、コーヒーの木の根にとって最適な環境を作り出します。根が健康に成長することで、地上部分も健康に育ち、結果として品質の高いコーヒー豆が実るんです。
スマトラの土壌は、火山活動の影響で特に肥沃です。火山灰が長年堆積して作られた土壌は、ミネラルが豊富で、コーヒーの木の成長を助けます。具体的には、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのミネラルが豊富に含まれており、これらがコーヒー豆の風味形成に大きく寄与しているんです。
さらに、この土壌には有機物も豊富に含まれています。これは、森林からの落ち葉や枝が分解されて作られたもので、土壌の保水性を高め、微生物の活動を促進します。この微生物の活動が、さらに土壌を豊かにし、コーヒーの木の成長を助けるという好循環を生み出しているんです。
このように、スマトラの土壌は、長い年月をかけて形成された自然の恵みそのものなんです。コーヒー農家の方々は、この貴重な資源を大切に守りながら、最高品質のコーヒーを生産しているんですね。
## 4. コーヒーチェリーの変身:収穫から豆まで 🍒➡️☕
さあ、いよいよコーヒーチェリーを収穫する時期がきました!ここからが本当の魔法の始まりです。コーヒーチェリーが、私たちがよく知るコーヒー豆に変わっていく過程を、詳しく見ていきましょう。
1. 収穫:
完熟したチェリーを丁寧に摘み取ります。これは手作業で行われることが多く、熟練の技が必要です。なぜなら、完熟したチェリーだけを選んで摘み取る必要があるからです。早すぎても遅すぎても、最高の味は引き出せません。
– 完熟の目安:深い赤色または赤紫色
– 収穫時期:通常、雨季の後(スマトラでは9月〜12月頃)
– 収穫方法:選別収穫(チェリーピッキング)が主流
2. 果肉除去:
チェリーの外側を取り除きます。この工程には主に二つの方法があります。
a) 乾式法(ナチュラル):
– チェリーをそのまま天日干しする
– 乾燥後に果肉を取り除く
– 特徴:フルーティーな風味が強くなる
b) 水洗式法:
– 水を使って果肉を取り除く
– より清潔で均一な品質が得られる
– 特徴:クリーンな味わいになる
スマトラでは、高湿度のため、独特の「ウェットハル製法」が発展しました。これは水洗式と乾式のハイブリッドとも言える方法です。
3. 発酵:
24時間ほど、自然の力で豆を変化させます。この過程で、豆の周りに残った果肉(ミューシレージ)が分解され、豆本来の味わいが引き出されます。
– 発酵の目安:pHレベルや温度をモニタリング
– 発酵時間:気温や湿度によって調整(通常12〜36時間)
– 注意点:発酵が進みすぎると不快な酸味が生まれる
4. 水洗い:
きれいな水で豆を洗います。この工程で、発酵で分解された果肉の残りを完全に取り除きます。
– 使用する水:きれいな湧き水や河川水
– 水洗いの回数:通常2〜3回
– 重要性:雑味の原因となる不純物を取り除く
5. 乾燥:
これが重要!スマトラ式では1日乾燥させます。この乾燥過程が、スマトラコーヒーの特徴的な味わいを生み出す鍵となります。
– 乾燥方法:日陰乾燥が主流
– 乾燥時間:通常の水洗式より短い(1〜2日)
– 目標水分量:35〜40%程度(通常の水洗式より高い)
ここで、スマトラ式の特徴的な方法、「ウェットハル」について詳しく話しましょう。この方法は、高い湿度と雨量が多い地域ならではの知恵なんです。
ウェットハル製法の特徴:
– パーチメント(豆を覆う薄皮)を半湿りの状態で取り除く
– 乾燥時間が短い(通常の水洗式の半分以下)
– 豆の中心部に水分が残る→独特の風味形成
普通の乾燥方法だと2週間以上かかるところを、スマトラ式なら5-7日で済むんです!この方法により、スマトラコーヒーの特徴である「重厚な口当たり」と「スパイシーな風味」が生まれるんです。
さらに、この方法は環境にも優しいんです。水の使用量が少なく、乾燥時間も短いので、エネルギー効率が良いんです。まさに、自然環境に適応した素晴らしい知恵と言えるでしょう。
## 5. 豆の休息時間:レスティングの魔法 🧙♂️
乾燥が終わったら、すぐに出荷…とはいきません。ここからが実は大事な「レスティング」の時間です。
レスティングって何?簡単に言えば、豆を休ませる時間です。でも、ただ置いておくだけじゃありません。時々、軽く乾燥させたりしながら、豆の中の水分を均一にしていくんです。
これが14日間続きます。なぜそんなに長いの?それは、豆の中の水分を完璧に調整するためなんです。この過程が、コーヒーの味わいを決める重要な要素になるんです。
レスティングの詳細を見ていきましょう:
1. 目的:
– 水分の均一化
– 豆の内部構造の安定化
– 風味の熟成
2. プロセス:
– 1日目:乾燥後の豆を袋に入れて倉庫で保管
– 2日目:休息
– 3日目:再び軽く乾燥させる
– 4日目:休息
この cycle を約2週間繰り返します。
3. 水分調整の仕組み:
– 豆の表面と内部の水分差が徐々に均一化
– 自由水(豆の細胞間の水)が結合水(細胞内の水)に変化
4. 風味への影響:
– 酸味が穏やかになる
– コクが増す
– 複雑な風味が発展
5. レスティング中の化学変化:
– タンパク質の変性
– 糖の結晶化
– 脂質の酸化(適度な酸化は良い風味を生む)
6. 環境管理:
– 温度:20-25℃が理想的
– 湿度:50-60%を維持
– 換気:適度な空気の流れを確保
このレスティング期間中、豆の中では複雑な化学変化が起こっています。例えば、豆に含まれる酵素が徐々に働き、苦味の元になる化合物を分解したり、香りの元になる物質を生成したりしているんです。
また、豆の細胞構造も少しずつ変化し、後の焙煎過程でより均一に熱が伝わるようになります。これが、最終的な味のバランスを決める重要な要素となるんです。
面白いのは、この過程が地域の気候や環境に大きく影響されること。スマトラの高湿度な環境だからこそ、このようなゆっくりとしたレスティングが可能になるんです。乾燥地帯では、豆が急速に乾燥しすぎてしまい、同じような効果は得られません。
レスティングの重要性は、実はあまり一般には知られていません。でも、プロのコーヒーバイヤーや焙煎士は、この過程がコーヒーの品質に大きな影響を与えることをよく知っているんです。
次に飲むコーヒーの味わいの奥深さに、このレスティング期間の魔法が隠れていると思うと、より一層楽しめるのではないでしょうか?
## 6. 最後の仕上げ:選別と輸出準備 🔍📦
レスティングが終わったら、いよいよ最後の仕上げです。ここからが、品質管理の最も重要な段階と言えるでしょう。一つ一つのプロセスを詳しく見ていきましょう:
1. 比重選別:
– 目的:密度の違いで豆の品質を判断
– 方法:水や空気を使って豆を選別
– 原理:高密度の豆ほど品質が高い
具体的には、水選機や風選機を使います。水選機では、水に浮く豆(フローター)を取り除きます。これらは未熟豆や虫食い豆である可能性が高いんです。風選機では、軽い豆(チャフ)を風で吹き飛ばします。
2. スクリーニング:
– 目的:大きさで豆を分ける
– 方法:異なるサイズの穴が開いた振動スクリーンを使用
– 重要性:サイズの均一性が焙煎の均一性につながる
スクリーンサイズは通常、64分の1インチ単位で表されます。例えば、スクリーン18は64分の18インチ(約7.1mm)の穴を持つスクリーンを意味します。高品質のコーヒーは通常、スクリーン16以上のサイズです。
3. ハンドピック:
– 目的:機械では取り除けない欠点豆を除去
– 方法:熟練した作業者が目視で選別
– 重要性:最終的な品質保証
この作業は非常に労働集約的ですが、高品質コーヒーには欠かせません。欠点豆には、黒豆、発酵豆、虫食い豆などがあります。これらを丁寧に取り除くことで、カップクオリティ(味わいの品質)が大幅に向上します。
4. 袋詰め:
– 使用する袋:グレインプロバッグ(特殊な多層フィルム袋)
– 容量:通常60kg
– 特徴:湿気や酸素を通さず、豆の品質を長期間保持
5. 品質検査:
– 物理的検査:水分量、密度、粒度分布
– 官能検査:カッピング(味わいの評価)
– 化学的検査:カフェイン含有量、酸度
そして、輸出の準備!ここで大切なのは、信頼できるパートナーと協力することです。なぜなら、日本の厳しい残留農薬基準をクリアしないといけないからです。
日本の残留農薬基準は世界でも最も厳しいものの一つです。例えば:
– イソプロカルブ:0.01 ppm以下
– カルバリル:0.1 ppm以下
– グリホサート:5 ppm以下
これらの基準をクリアするためには、栽培段階から細心の注意を払う必要があります。有機栽培や減農薬栽培の技術が重要になってくるんです。
また、輸出の際には以下の書類が必要になります:
1. 原産地証明書
2. 植物検疫証明書
3. インボイス
4. パッキングリスト
5. 船荷証券(B/L)
これらの書類をそろえて、やっと日本への旅立ちの準備が整うんです。
ここまでの工程を経て、やっと私たちの元にコーヒー豆が届くんです。一粒一粒の豆に、どれだけ多くの人の努力と時間が詰まっているか、想像できますよね。
## 7. 自然との調和:アグロフォレストリーの実践 🌳☕🌳
最後に、とても大切なことをお話しします。それは「アグロフォレストリー」という考え方です。これは、コーヒー生産と環境保護を両立させる素晴らしい方法なんです。
アグロフォレストリーって何?簡単に言えば、森林と農業を調和させる方法です。コーヒーの木を植える時、周りの自然環境も大切にしようという考え方なんです。
具体的に見ていきましょう:
1. 山の頂上は森のまま残す:
– 目的:水源の保護、土壌流出の防止
– 効果:安定した水供給、生物多様性の維持
2. 斜面にコーヒーの木を植える:
– 方法:等高線に沿って植樹
– 利点:土壌侵食の防止、日陰の確保
3. 川沿いはまた森にする:
– 目的:水質保護、生態系の維持
– 効果:川の氾濫防止、野生動物の生息地確保
アグロフォレストリーの具体的な利点:
a) 生物多様性の保護:
– 鳥類:害虫駆除に役立つ
– 昆虫:受粉を助ける
– 哺乳類:種子の分散を促進
b) 土壌の質の向上:
– 落葉:自然の肥料となる
– 根系:土壌の保水力を高める
c) 気候変動への対応:
– CO2の吸収:森林がカーボンシンクとして機能
– 微気候の調整:極端な気温変化を緩和
d) 経済的利点:
– 複数の収入源:コーヒー以外の作物も栽培可能
– リスク分散:病害虫や市場変動への耐性
e) 文化的価値:
– 伝統的な知識の保存
– 地域コミュニティの強化
実際の例を見てみましょう。インドネシアのアチェ地方では、アグロフォレストリーを実践しているコーヒー農園があります。ここでは、コーヒーの木の間にアボカドやバナナの木を植えています。これらの木々が日陰を作り、コーヒーの木を強い日差しから守ると同時に、追加の収入源にもなっているんです。
また、農園の周囲には在来種の樹木を植えることで、野鳥や昆虫の生息地を確保しています。これらの生き物たちがコーヒーの受粉を助けたり、害虫を食べてくれたりするんです。
このように、アグロフォレストリーは自然のバランスを保ちながら、持続可能なコーヒー生産を可能にする素晴らしい方法なんです。環境を守りつつ、美味しいコーヒーを作る。これこそが、未来のコーヒー生産のあるべき姿と言えるでしょう。
## まとめ:一杯のコーヒーに込められた物語 📖
さあ、長い旅でしたね。海から始まり、山を越え、土壌を潜り、そして豆となって私たちの元に届く。一杯のコーヒーには、こんなにも深い物語が隠れているんです。
私たちが何気なく飲んでいるコーヒー。その一粒一粒に、自然の恵みと人々の知恵、そして情熱が詰まっていることがわかりましたね。
– 山々が生み出す理想的な環境
– 水のサイクルがもたらす豊かな恵み
– 土壌の秘密が育む豆の個性
– 収穫から加工まで、匠の技が光る瞬間
– レスティングという魔法の時間
– 厳しい選別が生み出す最高品質
– 自然と共生するアグロフォレストリーの wisdom
これらすべてが調和して、私たちの元に素晴らしいコーヒーが届くんです。
次にコーヒーを飲む時、ちょっと立ち止まって考えてみてください。この一杯には、自然の循環、農家さんの知恵、そして私たち人間と自然との関係が詰まっているんだと。
コーヒーを通じて、私たちは世界とつながり、自然とつながっているんです。その一杯に込められた物語を知ることで、コーヒーの味わいはより深く、より豊かになるはずです。
さあ、今日からあなたのコーヒータイムがもっと特別なものになりますように!そして、この素晴らしい飲み物を生み出すために日々努力している生産者の方々、そして私たちに恵みを与え続けてくれる自然に、感謝の気持ちを忘れずにいましょう。
コーヒーって、単なる飲み物じゃない。それは、地球の物語を一杯に凝縮した、小さな宇宙なんです。☕🌍💖