まーちんのコーヒーと映画:コーヒーが飲みたくなる映画『コーヒー&シガレッツ』
スタッフのまーちんです。
映画に出てくるコーヒーに注目するコラムの第10弾、今回は見たらコーヒーが飲みたくなる率がダントツな映画から…
ご紹介するのは、ジム・ジャームッシュ監督のオムニバス映画、『コーヒー&シガレッツ』
断片的に撮影されたコーヒー(時に紅茶)とたばこが必ず出てくる11の短編すべてが、独特な雰囲気を醸し出す映画です。
ほぼ常にコーヒーが登場するこの映画におけるコーヒーを見ていきましょう!
シリーズ第9弾の『グリンチ』に関してのコラムはこちら→ まーちんのコーヒーと映画:『グリンチ』とモーニングコーヒー
【目次】
『コーヒー&シガレッツ』のあらすじ
『コーヒー&シガレッツ』は2003年公開のアメリカ映画で、ジム・ジャームッシュ監督の11の短編から成るオムニバス映画です。
物語同士で、ところどころで同じセリフが出ていたり、似た状況が生まれていたりする場面がありますが直接的、具体的な繋がりがあるわけではなく、すべてが個別の物語になっています。
しかし11の物語すべてが、コーヒー(紅茶)を飲み、タバコを吸いながらゆったりと進む会話が中心に進行していきます。むしろコーヒーとタバコをたしなみながら会話をしているだけの映像が続く映画です。
劇的な展開があるわけでもなく、物語は単調なものですが、11の短編すべてが独特な雰囲気を持ち引き込まれる作品になっています。
ここではいくつかの簡単なあらすじを見ていきましょう。
「変な出会い」
一人の男ロベルトが、落ち着きのない様子で震えながらコーヒーを飲んでいる。
そこにもう一人の男スティーヴンが近づいてくる。ロベルトはスティーヴンとあいさつを交わす。
「よろしくスティーヴ。」『スティーヴンだ。』
「コーヒーをどうぞスティーブ。」『スティーヴンだ。』
そう言って2人はコーヒーを飲みタバコをふかす。
2人はその後も会話を交わす、「コーヒーを飲んでから寝ると猛スピードの夢が見られるんだ。」「私の母を知っていますか?」しかし2人の会話はどこかかみ合わない。
スティーヴンは歯医者の予約があり行かなくてはいけないが、歯医者嫌いなため彼は行きたくない。
そこにロベルトが「ボクはとっても暇なんだ。」というので、『じゃあオレの代わりに行くかい?』と提案するスティーヴン。
「いいのか?喜んでいくよ!ありがとうスティーヴ。」そういってロベルトは立ち去っていくのであった。
「双子」
男女がの双子がダイナーでコーヒーとタバコをたしなみくつろいでいる。
メンフィスに来たのはどっちのアイデアか…安いタバコは吸うな…そんなたわいもない小言をぶつけ口論していると、ウエイターがコーヒーのおかわりはどうかとやってくる。
双子は「いらない」と断るがウエイターはヒマだからと2人に絡んでくる、「ここ出身?」「双子なの?」…質問を流す双子にウエイターはとっておきのジョークを披露する。「地元の英雄エルヴィス・プレスリーには実は双子の兄がいて偶然出会った2人は途中で入れ替わっており、兄の方はやりたい放題だった。派手な白いスーツを着たり、ブクブクと太っていったりとしていったため、マネージャーが毒殺したんだ。」
というもの、それを聞いた双子は「エルヴィスは黒人の音楽をパクっていた」という話をしてウエイターを追っ払い、コーヒーで乾杯をする。
その後またしょうもないことで再び口論を始めるのであった…。
「ルネ」
コーヒーを飲みながらタバコを吸い、雑誌を読んでいる女性がカフェで一人たたずんでいる。
ウエイターがカップにお代わりをと、コーヒーを注ぎ足した。
女性は「色も温度もちょうどよかったから必要なかった」とウエイターをとがめます。
しばらくするとまたウエイターがやってきたので、女性はコーヒーカップの上に手をかざして、ウエイターをけん制します
ウエイターはまた立ち去るも、ほどなくしてまたもやウエイターが戻ってくる。
同じように、女性はコーヒーカップの上に手をかざしていると「もしかして、あなたの名前はグロリアでは?」とウエイターは尋ねます。
「違うわ」とそっけなく答える女性に「友達の知り合いかと思って…」とウエイターはまた去っていきます。
再度ウエイターはすぐに戻ってきて今度は食べ物を勧めるウエイター。
またもやそっけなく断られ「失礼…」とウエイターは立ち去るのであった…。
この他にも、有名俳優や歌手、ヒップホッパーが本人の役で出演している話もあり、どれもが淡々と進んでいく少し不思議な物語です。
何はともあれ、登場人物はみなあまりおいしそうにコーヒーを飲んでいないのにも関わらず、観終わるとなぜかこっちがコーヒーを飲みたくなるの作品です。
『コーヒー&シガレッツ』でのコーヒー
『コーヒー&シガレッツ』の独特な雰囲気を作り出す要素はいくつかあるように感じられます。
モノクロの映像に、雑音交じりのBGM、多彩なインテリアや、粋なセリフ回しに、出演者のちょっとした演技…いろいろな要素が重なって、『コーヒー&シガレッツ』という作品の空気感が生まれています。
もちろんほぼ全シーンにコーヒーが登場するこの作品においてコーヒーの役割はとても大きいです。
例を挙げると…
会話のきっかけになる。
キャラクターの性格を表す。
緊張感を和らげる。
独特な間を生み出す。
間を埋める。
キャラクターの対比を強調する。
などなど。
画面内に登場するコーヒーに注目して観てみるといろいろな見方ができるのがこの作品の面白いところです。
『コーヒー&シガレッツ』のコーヒーを飲みたくさせるポイント
『コーヒー&シガレッツ』は観るとコーヒーが飲みたくなるまさにコーヒーテロ映画です。
正直のところ作中に登場するコーヒーはどれも、淹れてからしばらく経っているものであったり、冷めきっているものであったりと本来あまりおいしいコーヒーではありません、しかしなぜかそのコーヒーがおいしそうに見える、コーヒーが飲みたくなってしまう、そんな特別な魔力があります。
今回は『コーヒー&シガレッツ』における魔力。私が感じた、この映画の何が視聴者にコーヒーを求めさせるのかをご紹介したいと思います。
さまざまなコーヒー音
『コーヒー&シガレッツ』では登場人物がコーヒーを飲む一連の動作が静かに映し出されるシーンが多いです。
セリフもなくただコーヒーを飲むこのシーンではいくつかのかすかな音が響きます。
コーヒーをカップに注ぐ音、コーヒーに砂糖やミルクを加える音、コーヒーをかき混ぜスプーンがカップに当たる音や、コーヒーを啜る音に、飲み終わってほっとつく吐息の音。
これらの”コーヒー音”には視線を自然にコーヒーへ向けさせる効果があり、無意識のうちにコーヒーに注目してしまいます。そしていつの間にか観ているこっちがコーヒーが飲みたくなっているのです。
この作品を視聴する際にはぜひ耳を澄まして”コーヒー音”を聞き取ってみてください。「心地よい音が脳を刺激し、コーヒーを求めさせる」そんな不思議な体験をすることができます。
登場人物の好みの飲み方
『コーヒー&シガレッツ』ではたくさんの人物が登場し、キャラクターによって違ったコーヒーの飲み方を観ることができます。
ブラックで、ミルクを少しだけ入れて、砂糖をたくさん入れて、小さなデミタスカップで、大きなマグカップで、安っぽい紙コップで…
それぞれキャラクターに合った方法でコーヒーを飲んでいる所が映し出されているうちに、自分だったらどう飲むかや、この飲み方もおいしそうなどいろいろなことを考えさせられます。
そんなイメージを膨らましているうちに、いつの間にかコーヒーを淹れ始めてしまうのです。
ちなみに私が一番印象に残っているのは、ビル・マーレイのコーヒーサーバーからのガブ飲みです。
コーヒーのある空間
『コーヒー&シガレッツ』には終始どこか非現実的でズレている、シュールでゆったりとした独特な空気が流れています。
例えるならば、カフェでただ座ってゆっくりと談笑しているリラックスした雰囲気、時間の経過を忘れてしまうような空気を凝縮した感じです。この映画を観た多くの人がこの独特な空気感に魅了されることと思います。
そしてそんな空気に触れられるのを期待して、コーヒーを飲んでしまうのです。
観るとコーヒーが飲みたくなる映画『コーヒー&シガレッツ』、とてもリラックスしてみることができる映画です。
ぜひご覧になってご覧になって独特な空気に浸ってみてください、そして観終わった後にコーヒーを淹れてみてください。
きっといつものコーヒーが一味違ったものに感じるでしょう!